秋の空は何故だか高く感じる。そして、胸の奥が締め付けられるような、気がするのだ。
秋は運動、勉強、趣味となんでもよい季節だが、冬が迫っているからこそなのかもしれない。
・・・なんて、もう1人の僕には感想を抱いて欲しかった。
ペンキのはがれかけたベンチに腰掛け、隣にいながらこちらを見ようとしない半身をじと目でにらんだ。
秋真っ盛りの公園で、闇遊戯は枯れ葉が落ちてくるのを眺めていた。
秋は切ないものなのだが、それは古代エジプトのファラオには少々伝わらないらしい。
彼が子供のように見つめているのは真っ赤なもみじだ。
華々しく、毒々しい色は他の落ち葉の中でも目を引く。
何を話しかけても生返事だった闇遊戯が、ようやく意思を伴って遊戯に質問する。
『なんで、もみじは赤いんだ?』
「・・・えーと」
正直、闇遊戯が知らなければ遊戯もわからない。
というのも、闇遊戯とは一部記憶を共有している。
つまり、遊戯の記憶に無いものは闇遊戯にはわからないのだ。
けれどそこは彼もわかっているのだろう。
彼が要求しているのは正しい答えではなく、芸術の秋としての答え。
「夕焼けを映したから、だったりして」
『おいおい、それは赤とんぼの話だろ?』
「あれ?そうだっけ」
笑いあいながら、重い腰を上げた。
来年もまた、などと不確かなことはいえない。
だからこそ、この時間が尊く思えるのかもしれない。
ああ、この感覚は秋に似ているのか。
自問自答に苦笑して、遊戯は高い空を見上げた。
そんなあまり柄でもない様子を見て、もう一人の自分は悪戯心を起こしたのだろう。
一枚もみじの葉をつまむと、こちらへ差し出しながら言い放った。
『なんだかこれ、相棒そっくりでかわいいぜ』
呆けていた分反応が遅れ、闇遊戯を満足させる顔を露呈してしまったようで、忍び笑いが聞こえてきた頃には顔は熱かった。
いや、こういうときこそ、慌てては思う壺だ。
ひとつ咳払いをして間を取り。自分にできる最上の笑顔で言ってやった。
「僕の顔ってさ、君に似ているんだよね?」
いつだったかのお返しも含めての渾身の一撃。
ああ、さっき僕はこんな顔をしてたんだな、というのがコマ送りでありありと分かった。
だがそこはさすが闇遊戯だろうか。
『そうか?…はは、嬉しいぜ』
笑顔でまた切り替えしてくるものだから、こちらが言葉に詰まる。
それを確認して、はにかみから相手をトラップに陥れる鋭い笑みに変わる。
『フフ、相棒もまだまだだな』
「…君の演技力には誰も勝てないと思うけどなぁ…」
降参の意を示して、ため息を吐く。
まったくもって、決闘を勝ち抜くポーカーフェイスには恐れ入る。
彼に追いつこうと思うなら、それすら会得しなければならないというのだから、まだまだ彼の背中は遠い気がする。
少々沈んだ気持ちで公園の出口へ向かう背中に、闇遊戯の声が風と共に届く。
『どちらが演技か、見抜けない辺りがまだまだなんだがな』
え、と振り返る前に遊戯の前を半透明な体がすり抜けていく。
『早く帰らないと風邪をひくぜ』
「ね、今のどういうこと」
んー、と少し悩む素振りを見せながら振り返る。
もちろんいつものごとく、何を考えているか悟らせない笑みで。
『今日トランプで勝てたら教えるぜ』
「言ったね!?言っとくけど必勝法を編み出したからね!!」
『ほーう、お手並み拝見といこうじゃないか』
彼との思い出は鮮やかで、散るのも早いのだろう。
けれどそれは積み重なって、共に冬をすごし、春を迎える。
短い間にたくさんの思い出を。
そんなこと、恥ずかしくてお互い言えやしないし、分かっているのだ。
秋はどうもロマンチストになるなあ、と創作の秋と呼ばれる所以を感じながら、遊戯は家路へ落ち葉を蹴った。
息は白い。
もうすぐ、冬が来る。
ナニコレハズカシイッ!!orz
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