4月1日と言えば、何の日か多くの方がご存じだろう。
「エイプリルフール、だろ?」
もう一人の僕が当然という風に言う。ただし僕の主観だと思うが、若干楽しそうに見える。
それならきっと、軽い嘘くらい用意しているだろう。そう予想して、僕は「いかにも」という雰囲気を装ってもう一人の僕へ話しかけた。
「いや、違うね」
「ん?嘘をつく日じゃないのか?」
「エイプリルフールっていうのは本当のことを言う日なんだよ」
「?それだとおかしいぜ?みんな嘘をついてもいい日、って言ってるじゃないか」
「本当のことを言う日…つまりみんな毎日嘘をついてるってことなのさ!」
我ながら分かりやすめの大きな嘘をついたとおもう。しかしまあ、もう一人の僕ならあっさり返してくるだろう。そう予測しての言葉だったのだが。
「そうか……俺はどうやら勘違いをしていたみたいだな」
「えっ?」
「今日は本当のことを言って、いつもみんなうそつき、つまり愚か者だということを確認しあい、また平日生きて行こうという壮大なイベントなんだな」
「えっと……」
これは僕に対して嘘をつき返しているのだろうか……それとも素なんだろうか……。表情から読み取ろうにもその程度で暴露するようなもう一人の僕じゃない。判断がつきかねたので、かまをかけてみた。
「うん……実は日頃から思ってたんだけど、僕、君のことが大嫌いなんだよね」
「そうか……実は俺も嫌いだったんだぜ」
あまりにも平然と言うものだから。
不覚にも、その言葉にどきりとした。もちろん嫌な意味で。今日はエイプリルフール、エイプリルフールと言い聞かせ、平常心を保つ。うまくごまかせているかは自信がない。
「っ今日からパズル一瞬だってつけていたくないね!」
「ああ。ずっと外しておいてくれ」
即答だった。僕が衝撃を受けないはずがない。思わずもう一人の僕のほうを見やったけれど、見ないほうがよかったかもしれない。もう一人の僕は千年パズルの鎖を見つめていた。もしかして、パズルを外すのを待ってるんじゃあ……。マイナスな考えが連鎖して、どんどん考えが狭まっていく。いいや、エイプリルフールだって!!
「きっ君なんかと出会ってしまって僕はすっごく不幸だよ!」
「ああ、俺もお前と出会わなければよかったぜ」
な、なんで、そんな、即答なの……!!本当に悲しくなってきた。ぐ、とパズルを首からつるしている鎖に手をかけた。
「あーもー分かった!今すぐ外すさ!!」
「あっ相棒!!」
今日一番焦った声を出すと、もう一人の僕はその透ける手で僕の腕をつかんだ。
突然の事態に動けずにいる僕に、もう一人の僕ははっとした顔で顔を見つめ、照れたのかすぐにごまかすように笑った。
「しまった……嘘だと分かっていてもひやっとしたぜ?」
さすが相棒だ、と褒めてくるもう一人の僕に、僕はあいまいに威張っておいた。僕がいかにダメージを受けていたのかというのはもちろん秘密である。
「エイプリルフールは嘘を言う日で合ってるんだよな?反対の言葉にすると、恥ずかしがらずに言えるもんだな」
彼の言葉でそれまでの発言を思い出して、僕は赤面した。
「君と出会えて僕は幸せだよ」
「ああ、俺もお前と出会えてよかったぜ」